雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
「結婚は一生の問題だ。何も考えず、知ろうともしないで親に言われるままに結婚して。そうして結婚した後、俺がろくでもない男だと知ったらあなたはどうする? そんな絶望を味わいたいのか?」
「私は――っ!」
怯えていたはずの凛子さんが声を張り上げた。
「私は、ずっと……」
膝の上の着物の生地をぎゅっと掴みながら、凛子さんが俺を真っ直ぐに見上げる。
「ずっと、創介さんのことをお慕いしてきました。私はあなたと結婚したいのです」
「それは、親に言われていたからで――」
「違います。私が、あなたに一目惚れしたんです。両親に言われたからというだけの理由ではありません。私の意思でもあります」
まさか――。
普通に考えれば、親に決められた相手と言われるがままに結婚することに多かれ少なかれ抵抗があるだろうと思っていた。
だから、俺の本当の姿を伝えて、彼女の方から断らせるつもりだった。
そうすれば、彼女にも傷がつかず、自分の親も納得させられる。宮川氏も、自分の娘がどうしてもイヤだと言えば受け入れざるを得ないだろうと。
そんな甘い考えが通用するはずもなかったと、もう一人の自分が嘲笑っている。
それでも、はっきりと嘘偽りなく凛子さんに伝えなくてはならない。そのために今日、ここへ来たのだ。
「そうだとしても、凛子さんに言わなければならない。俺はあなたを愛せない」
凛子さんの瞳が大きく見開かれる。
「結婚してもあなたを幸せにはできない。自分を愛してくれない男を夫にしたくはないでしょう。あなたほどの人なら、あなたを愛し大事にしてくれる男がいくらでもいる。凛子さんに相応しい人に出会えるはずだ」
「どうして、と理由をお伺いしてもいですか? どうして、私を愛せないと……?」
その震えた声を聞けば、罪悪感が胸に沈み込む。でも、どう考えても、この結婚は誰も幸せにはしない。
「俺には、ずっと想っている人がいます。俺が愛せるのは今までもこれからもその人だけだ」
「その方は……」
既にその目は潤み始めていた。
「あなたとは似ても似つかないような女です。でも、俺にとってはこの世で一番美しいと思う人だ。
俺のようなどうしようもない男の傍にいて、きっと陰で何度も泣かせているでしょう。
はっきりとした想いも告げられないような臆病な男なのに、彼女はずっとただ傍にいてくれた。何も確かなものはあげていないのに」
いつだって、何も望まない。ただそこにいようとしてくれた。
ただ一人、俺を人間にしてくれる人だ。