雪降る夜はあなたに会いたい 【上】
その時、不意に見回した景色の中に、呆然と佇む人の姿が視界に入り込んだ。
「……雪野」
思いもかけないことに、その名前を口にしていた。
「創介さん、どうなさったの?」
俺の様子を不審に思ったのか、凛子さんが立ち上がる。
見てすぐ分かるほどに怯え切っていた雪野は、そのまま後ずさろうとした。
「雪野、待て!」
このまま行かせてはいけない。
それしか頭になくて、この状況を考える前にただそう叫んでいた。
身体が勝手に動き雪野の元へと駈け出して、その腕を掴む。
そこに凛子さんがいるということが完全に頭から消え去ってしまうほどに、必死だった。
「――創介さん、お知り合い?」
俺の後を追いかけて来た凛子さんの声で、我にかえる。
「あ、ええ――」
「こんにちは」
今にも逃げようとしていた雪野が、何を思ったのか俺の手を自分の腕から離し、凛子さんに頭を下げていた。
「私、以前、榊さんのお宅で働いていたんです」
雪野――?
雪野が凛子に笑顔を向け、意味の分からないことを口走っている。
「創介さん、どうもご無沙汰しています。その節は大変お世話になりました」
作られた表情が俺に向けられた。
「雪野――」
「あら、そうだったんですか。お住まい、お近くなんですか?」
凛子さんが雪野に微笑みかける。
「は、はい。買い物に行くついでに散歩でもしようかなって来てみたら、創介さんがこんな所にいらっしゃるのでびっくりしました」
一体、何を言っている――?
「驚かれても当然ですよね。私が、ここに来たいとお願いしたんです」
「そうだったんですか……で、では、私はこれで」
雪野はすぐに俺から視線を外し、踵を返した。
うちで働いていたなんて、何故そんな嘘を――。
雪野の背中が急速に遠くなって行く。
ただただ混乱する頭の中、自分が今置かれている状況を忘れて走り出していた。
「創介さん……!?」
凛子さんの声が聞こえた気がしても、どうしても雪野を逃がしたくなくて。
「雪野、待て!」
河川敷脇に現れた草むらに消えた雪野を夢中で追いかけた。
冬の葉はかさかさと触れる度に音を鳴らす。俺から逃げるように走って行く雪野を、ようやくその中で捕まえた。