アネモネ


「ほう、景気良さそうだな、早瀬」

来客用の本革のソファを撫でるように触りながら、どっかりと腰を下ろすと、
竹田は作り笑顔で私に目を向けた、

「二度と会わぬと約束したはずだが、、」

「そう言うな、
 一緒に死地をくぐり抜けた戦友じゃないか」


だから会いたくないというのだ、、

懐かしき思い出など何ひとつ無い、それどころか戦場の悲惨さは口に出すのも憚られる。
飢餓の為に餓鬼になる戦友の姿を目の当たりすれば、誰もが尋常な精神では居られなくなる。

心の奥深くに封印して、
必死に忘れる事に努めてきたというのに、、
これをキッカケに甦るかもしれないではないか。


「それで? 要件を聞こう、、金か?」

「みくびるな、それ程不自由はしておらぬ」

金に困って兵隊仲間を頼る輩は何人も見てきた、
竹田もそんな一人だと思ったが、、


「じゃあなんだ?」


「お前、許嫁がいただろう?」


また封印したつもりの話を、、


「不治の病に罹って危ないらしいぞ」

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