再会から始まる両片思い〜救命士の彼は彼女の心をつかまえたい〜
「お疲れ」

「裕さん、お疲れ様です」

ふたりが声をかけた先を見ると体つきのガッチリとした男性が立っていた。この人もきっと救急隊員なのだろう。

「裕さん、彼女たちさっきの病院の看護師さんですよ。偶然ここで会ったんです」

「こら、彼女たちのプライバシーを大きな声で言うな」

ふたりに注意するとこちらに顔を向け、頭を下げてきた。

「すみません。職業をペラペラと話してしまって」

「いえ、いいんですよ」

苦笑いを浮かべながら私と紗衣ちゃんは声をかけた時、ハッとした。
向こうも私の顔に見覚えがあったようで目が合った。

「「あ……」」

お互いに発した声にさらに確信を深めた彼は、「あの時の人ですよね?」と声をかけてきた。
やっぱりあの時の彼だと私も確信し、頷いた。

「なんですか? 知り合いなんですか?」

救急隊員は楽しげに声をかけてきた。紗衣ちゃんも私の顔を覗き込み、興味津々だ。

「あぁ、半年くらい前に駅でCPR(心配蘇生)に当たったって話しただろう? その時に立ち会った人だ。医療関係者だとは思ってたんだ」

「あの時はおせわになりました」

「いや、こちらこそ」

なんだかあの時の一体感を思い出してきた。

「私も医療関係者なのでは、と思ってました」

すると彼は男性たちのテーブルに腰掛けながら私の方を向くと話を続けてきてくれる。

「救急救命士なんです。あの日も当直明けで帰るところでした」

なるほど。だから手際よく代わってくれたんだ。
3分以上ひとりでずっとマッサージしているのは大変だった。あの時に代わってもらえなければ私の手が止まりそうだった。もちろん止めるわけにはいかないのだが。

「あの時の男性は元気になられたようですよ。駅員さんに後日声をかけられたのですがそう言ってました。お礼をしたいと言っていたようなのですがお断りしたので詳しくは分かりませんが復帰したと聞きました」

「そうでしたか。良かったです。あなたの処置が的確だったからでしょう」

先ほどまで褒めていてくれた彼らとは少し違って、この彼から褒められると胸の奥がくすぐったくなる。

「こんなに離れて話すのも大変だし、ご一緒しませんか?」

声をかけてきた男性に促され、私と紗衣ちゃんが彼らのテーブルに移動した。
モーニングは終わり、ランチタイムにもならない時間帯。とても空いているとはいえ通路を挟んで話すのはすこし気まずかった。
けれどこの彼が登場したことで私はもう少し話したいと思ってしまった。
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