もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜
── 本当にそうだな、と思う。
葉菜と出会って、今までのオレはあっという間に塗り替えられてしまった。
特別な出会いをした訳じゃない。
彼女と出会ったのは、なにも特別じゃない日常のひとコマの中。
そんなオレの日常に自然と溶け込むようになった彼女に気付けば惹かれていて、何気なくそこにあった日常は、いつしか特別になった。
それから葉菜がそばにいてくれる日常は特別なものから自然なものへとまた姿を変え、今ではもう、彼女のいない生活など考えられない。
彼女と出会う前のオレがどうだったかなんて、もはや微塵も思い出せないくらいに。
鶴崎さんに揶揄われるくらいオレの表情筋にいい仕事をさせるのは、きっと後にも先にも葉菜だけだ。
── 報告書を仕上げた後も110番通報を受信した通信指令室からの指令で事故現場へ臨場したり、パトロール中に泥酔者を保護したりとこの街の今夜は随分と慌ただしかった。
あのストーカークソ野郎の呪いだろうか。
「── おかえりなさい!」
だがそんな疲れも彼女の笑顔を前にすれば、あっという間に昼前の陽光の中に霧散していく。
「……ああ。ただいま」
挨拶もそこそこにドアが閉まった瞬間玄関先で堪らずぎゅう、と抱きしめると、シャンプーと葉菜の香りの混じった、彼女だけが生み出せる魅惑の芳香が色濃く香る。
ぐりぐりと首筋に顔を埋めてその香りに癒されていれば、「……ふふ、くすぐったい……。大型犬にじゃれられてるみたい。お疲れさまでした」と葉菜は鈴を転がすような可愛い声で笑いながらオレの頭を撫でるから堪らない。
今ではもうすっかり慣れ親しんだ香りだが、この香りはオレに、安眠効果と欲情効果の二種の効果をもたらす。
そして第二当番空けのオレにより多くの効果をもたらすのはもちろん後者なわけで。
「── …葉菜」
「ん?」
誰よりも愛おしいその名を呼べば、優しい相槌が返ってくる。
「── …ちゃんと覚悟して待ってたか?」
彼女を拘束したままでその顔を覗き込むと、パッと瞬時に赤く染まる頬。
それさえもオレを刺激する要因になろうとは、彼女は思ってもいないだろう。
だが返事も待たずにその唇を塞いでしまうオレは、相当我慢が効かなくなっているらしい。
初めて葉菜を抱いた日から、オレは葉菜を前にすると利口に待てができない。
……しかし、さすがにこんな玄関先でがっつくのはよろしくないな。
何せ、オレはまだ靴も脱いでいない。
名残惜しくはあるが、一旦葉菜の唇を解放する。