敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
「弟さん、探偵みたいですね」
「まあな。でも、話を聞き出せたのは弟の手腕と言うより、紫陽花楼の従業員は藤間の親戚や縁者ばかりで構成されているからだったようだ。彼らは藤間ときみが結婚することで、自分たちの給与や待遇がよくなるのではないかと期待していたらしい」
つまり、私がこうして身勝手な行動を取ったことで、間接的に紫陽花楼の従業員たちにも迷惑をかけたということ……?
清十郎さんとの政略結婚が周囲に与える影響の大きさを改めて思い知らされ、叶多くんのおかげで薄れていた罪悪感が再燃する。
従業員にも家族がいて、生活がある。私のせいで彼らの穏やかな暮らしが脅かされるのだとしたら、どうやってお詫びすればいいのか……。
「なんとも他力本願な従業員たちだ」
俯く私の横で、叶多くんがふっと苦笑を漏らした。
「えっ?」
「だってそうだろう? そんな棚からぼた餅のような幸運を期待するのではなく、日々紫陽花楼を訪れる客たちに心づくしのおもてなしをして、宿泊客に〝また来たい〟と思わせる努力をする方が何倍も大切だ。八束という巨大企業の力に頼ってなにもしないのでは、一時的に従業員の待遇が向上したとしても、旅館の経営自体は衰退するに決まっている」