敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
結納をぶち壊しにしてしまった後ろめたさで曇っていた視界が、本質をとらえた彼の言葉でパッと開けたような気がした。
叶多くんの言うとおりだ。政略結婚によって八束の後ろ盾を得たとしても、紫陽花楼の従業員がそれに胡坐をかいて誠心誠意接客をしないのなら、遅かれ早かれ旅館はダメになる。
いくつものホテル経営者である父も、口癖のように言っているもの。
『宿泊業界は、人対人。どんなに便利な時代になろうと心のこもったサービスを忘れてはいけない』と。
今は父に対して複雑な気持ちを抱いているけれど、そういった姿勢に関しては、昔から尊敬しているのだ。
「だから、美来はなにも悪くない。悪者は俺だけだ」
私の抱える罪悪感に気がついていたのだろう。叶多くんが言い聞かせるようにそう言って、シートの上に置かれた私の手に自分の手を重ねて握る。
そこから伝わる温かさにホッとして、怯えたように縮こまっていた心臓もようやくいつものリズムを刻み始めた。
「叶多くんは悪者なんかじゃないわ」
「ありがとう。しかし、八束社長や藤間はそうは思わないだろうな。もしかしたら、今後も美来にはつらい思いをさせるかもしれない」