敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
そんなことを思いながらとぼとぼ歩いていると、暑い中でも大勢の人が行列を作っている飲食店の前を通りかかる。
私の求めるようなカフェではなく食事処のようだったので、すぐに素通りした直後。
店のダクトから流れてくる揚げ物の匂いが鼻につき、唐突な吐き気に襲われた。
「うっ……」
口元にハンカチをあて、そそくさとその場から離れる。
そのうち揚げ物の匂いはしなくなったが胃のむかつきは軽快せず、やがて歩くのもつらくなって、歩道の植え込みのそばでうずくまる。
体調が優れないというのに、久々の外出だからって調子に乗りすぎたみたいだ。こんなことなら病院でおとなしく待っているんだった……。
今さらのように後悔し、なかなかその場を動けずにいた、そのとき。
「大丈夫ですか?」
親切な女性に声をかけられ、虚ろな目をしながらも顔を上げる。
「えっ……?」
私の顔を見て驚いたように目を見開いたのは、あろうことか八束家の家政婦、泉美さんだった。
Tシャツに細身のデニムを合わせた私服姿に大き目のエコバッグを手にしているので、買い出しにでも来ているのかもしれない。