敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
反射的に〝逃げなくちゃ〟と思い、無理やり立ち上がって彼女に背を向ける。
「待ってください、美来様ですよね?」
背後から、心配そうな声が追ってくる。すぐに否定してこの場から立ち去りたいのに、体がふらついて言うことを聞かない。
結局数歩進んだだけで、私はもう一度その場にしゃがみ込む羽目になった。駆け寄ってきた泉美さんも身を屈め、私の背中にそっと手を添える。
「ご気分が悪いんですか? 救急車を呼びますか?」
「いいの、放っておいて。少し吐き気がするだけだから……」
「少しという感じには見えません。一緒に病院に行きましょう? 私、付き添いますから」
泉美さんの優しさは、実家にいた時と変わらない。
スペインから帰ってきたとき、私を心配する彼女に『もう黙っていなくなったりしない』と約束したはずなのに、その約束を破ってここにいる私を責めることもなく、ただただ寄り添ってくれる。
八束家の人間に会ってしまったのは大きな誤算だけれど、優しい泉美さんを冷たく突き放すなんてできない。