敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 実はマドリードに到着してすぐの醍醐先生に挨拶をしたとき、彼の顔色が優れず体調が悪いのではと心配していた。

 聞けば先生は飛行機が大の苦手で、日本からスペインまでの長旅で疲れてしまったらしい。

 いつもなら家族を同伴させて気を紛らわせるそうだが、奥様が第二子を妊娠している状況なので今回はひとりで参加したと、真っ青な顔で教えてくれた。

 パーティーへの参加が難しければ欠席でも構わないと伝えたが、そこはさすが家元。

 今は凛とした表情で香道の点前作法を披露し、スペイン人のゲストに香りのもてなしをしている。

 茶道や華道なら知っていたが、香道文化に触れるのは恥ずかしながらこれが初めて。座敷の方から漂ってくる上品な香りがほんのり鼻先をかすめただけで、心が鎮まっていくようだ。

「さすがは醍醐先生、素晴らしいお点前ですね。彼の人気にあやかれば、宿泊客が増えるかもしれない。紫陽花楼にぜひお泊りくださいとあとでお願いしなくては」

 そのとき、穏やかに凪いでいた俺の心を瞬時に乱す男の声が聞こえる。振り向いた先には予想通り、藤間清十郎の姿があった。

 醍醐先生と同じような和服姿だが、藤間からは独特の憂いと妖しげな色香を感じる。

< 151 / 220 >

この作品をシェア

pagetop