敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 歩み寄ってきた彼は、いきなり伸ばしてきた手で私の頬をむにっと摘んだ。

 痛くない程度だけれど、急に触れられた驚きで目が丸くなる。

「外交官になるのを諦めるなって俺を励ましてくれた、あの前向きな美来はどこへ行った? そんな暗い顔して運命に飲み込まれようとしているなんて、きみの言葉を信じて外交官になった俺に失礼じゃないか?」

 諭すように言い聞かせる叶多くん。

 私を見下ろすまっすぐな瞳が懐かしくて、心を揺さぶる。

 彼と交わした当時の会話が、頭の中に蘇ってきた。


 * * *


「翻訳家?」
「ええ。まだ、どの言語を学ぶかまでは決めていないけど……素敵な物語を、自分の選んだ言葉で世界中の人たちと共有するって、考えるだけでワクワクしない? だから父には悪いけど、私は八束グループの駒になるつもりはないの」

 確か、将来について彼に聞かれたときだと思う。幼い頃から本好きでいずれ翻訳家になりたいのだと、自分の夢を正直に語った。

「そうか。運命に抗うことすら諦めている自分が恥ずかしくなったよ」
「えっ? どういう意味?」

 叶多くんはパーティーに集まる、肌の色も国籍も様々なゲストたちに視線を投げた。

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