敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
「子どもに期待する親の気持ちが、今になって少しわかったな」
苦笑する叶多くんが、今度は私の髪を優しく撫でる。優しく指で髪を梳かれる感触が心地いい。
「ホントね……。でも、私たちのエゴを押しつけないように気をつけましょう。親の望んだとおりにならなくたって、元気でいてくれればいいんだから」
「そうだな」
叶多くんがやわらかく目を細めたその時、枕元でまたスマホが震える。泉美さんからの返事かと思いきや、届いたメールの差出人は定期的に仕事の依頼を受ける出版社からだった。
「えっ……?」
「どうした?」
興奮で言葉にならず、黙ってメールの文面を見せる。スマホの画面を目で追っていた彼はすぐに相好を崩し、思わずと言った感じに私にキスをした。
「児童文学の翻訳の依頼じゃないか。やりたかったんだろう?」
「ええ……。でも、私なんてまだまだ無名なのに。マタニティラックってやつかな?」
うれしいけれど、信じられない気持ちの方が強い。
今までの仕事にはもちろん真摯に取り組んでいたけれど、自分の翻訳にきらりと光るなにかがあるとは思っていなかったから。