敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
「どうしてあそこには近づいちゃいけないの?」
「お金や持ち物を盗まれたりするかもしれないの」
「どうして盗むの?」
「自分では買えないから、かな……」
家族が揃う夕食時などに、こうした難しい質問をされることも増えた。
翼の言う〝あそこ〟とは、貧困層が暮らす地域。そこの住民全員が悪人であるような言い方をする自分自身にも疑問を抱き、言葉に詰まってしまう。
「ふうん……」
納得できかねるように首をひねる翼を見て、叶多くんも会話に加わる。
「パパも、できることなら『近づくな』なんて言いたくない。あの場所に住んでいたって、素敵な人たちはいっぱいいる。だから、そういう人たちがきちんとご飯を食べられて人から何か盗ろうなんて思わなくなるように、州や市と協力して日本企業の誘致を進めて、彼らがきちんとした仕事に就けるような手伝いをしてる」
「そしたら、いつか仲良くなれる?」
「なれるさ。そう信じて、パパは自分の仕事をしてる」