敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

 強引に丸め込まれて叶多くんに従うしかなくなり、私も彼の背中に手を添え、遠慮がちに寄り添う。斜め下から彼の秀麗な顔立ちを盗み見るだけで、鼓動が騒いだ。

 今、たまたま恋人がいないだけで、叶多くん自身はこんな風に女性を連れ歩くことに慣れているんだろうな……。

 そう思うと胸にモヤッとした暗雲がかかったが、慌てて振り払う。

 叶多くんはお芝居で恋人を演じてくれるだけ。本当の彼が私生活でどんな恋愛をしていたって、私には関係ないでしょう。

「また暗い顔してる」

 不意に歩みを止めた叶多くんが、そう言って私の顔を覗き込んだ。心の奥まで見透かすような深い茶色の双眸に見つめられ、胸がきゅっと縮む。

「デート中は俺以外のこと考えて上の空になるの、禁止」

 少し不機嫌そうな、けれどとびきり甘い声音で、叶多くんが私を諭す。

 上の空になった原因はむしろ彼なのだけれど、そんな恥ずかしいこと言えない。

「わ、わかった……」

 コクッと頷いてそれだけ言うと、叶多くんは満足そうに微笑んで、また歩き出す。

 たった一瞬見せられた笑顔が、胸に焼きついて離れない。

 どうしちゃったんだろう、私。こんなに心が落ち着かないのは初めてだ。

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