敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~

「じゃ、シェリーにしようか。発酵中のワインにブランデー加えた酒で、ナッツや干し草に似た独特の芳香がたまらない」
「すごく強そうなお酒ね」
「ああ。シェリーが造られるアンダルシア地方はフラメンコも有名だし、情熱的な人々が多いんだ。それにあやかって、美来をシェリーで酔わせて情熱的にさせてみたい」
「情熱的って……」

 照れくさいセリフにパッと彼から目を逸らすと、ひじ掛けに置いていた手が、叶多くんの大きな手に包み込まれた。

 心臓が飛び出しそうなほどドキッと跳ね、彼の目を見ることができない。

「あと十分くらいでトレドだ」
「そ、そう」

 どうやら彼は、列車内でも恋人のフリに手を抜かないらしい。

 緊張と恥ずかしさで勝手に手が汗ばんできて、どうか叶多くんが気づきませんようにと祈りながら、到着までジッと外の景色ばかり見ていた。


 トレド駅に到着したのは午後三時頃。駅から徒歩でのんびり、旧市街へ繋がるアルカンタラ橋を通る。

 橋を渡った丘の上に旧市街の一部が見え、その場所だけ中世の時代に閉じ込められたような、歴史のロマンを感じた。

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