敏腕外交官は傷心令嬢への昂る愛をもう止められない~最上愛に包まれ身ごもりました~
こぼさないと決めていた涙がひと筋、頬を滑り落ちていく。唇を離すと、泣き顔を見られたくなくて彼の胸にギュッと顔を埋めた。
「Qué tengas mucha suerte.」
叶多くんが耳元でそっと囁く。八年前からずっと私を支えてくれていた、魔法の言葉。
しばらくの間そばにいられないからこそ、心に沁み渡る。
私も『叶多くんにたくさんの幸運がありますように』と、強く祈りたい。
「Qué tengas mucha suerte.」
涙声で、必死に叶多くんに伝える。微笑んだ彼の瞳もうっすらと張った涙の膜で揺れていて、切なさに胸が詰まった。
それからはお互いにもう言葉を発することもできず、時間が来るまでただ抱きしめ合い、別れを惜しんだ。
叶多くんと別れて飛行機に搭乗する頃には、顔がぐしゃぐしゃだった。
清十郎さんも私の心中を察してくれているのか、声をかけずにそっとしておいてくれる。
彼と隣り合うビジネスクラスのシートに深く身を預けると、大好きなスペインの景色を目に焼き付けるように、窓の方を向いた。
愛する人と離ればなれなのは苦しいけれど、苦労すると思っていた清十郎さんの説得が意外過ぎるほどすんなり済んだのはホッとした。
彼の協力があれば、父の説得だってうまくいくはずだ。
離陸直前のアナウンスが流れる頃には新たな涙も湧かなくなったので、とりあえず体を休めようと目を閉じる。なにせ日本までのフライトは、直行便でも十四時間かかるのだ。
それに昨夜から今朝にかけて叶多くんに思い切り愛された影響か、体のあちこちが怠かった。
本当に、幸せな時間だったな……。
昨夜の甘い時間を反芻し、夢と現実の狭間を揺蕩っていた、その最中。
「……二カ月もあれば十分だ」
薄れゆく意識の中で清十郎さんのそんな声がして、そっと頬を撫でられたような気がした。