悪役令嬢に転生した元絵師は、異世界でもマイペースを崩さない
「隣国、スイートパラダイス王国より来訪されました、フミアキ王太子並びにマリー王太子妃のご入場でございます」

何ともダサい隣国名はきっと滋子のセンスのなさの象徴だが、それよりももっと驚いたのは、王太子と王太子妃の名前に他ならない。

前世よりもかなり若いが、フミアキ王太子はかつての清乃の父、マリー王太子妃は清乃のかつての母親に間違いなかった。

「なんであんたらも揃って転生してんのよ?」

という、キヨノの突っ込みは遠く離れたところにいる二人には届くはずもなかった。

それなのに目が合い、不敵にもフミアキがウィンクをかましてきたことは気のせいだと信じたいキヨノであった。

「舞踏会の前にお伝えしたいことがあります」

ヒロインであり、平民ながらも虹色聖女と呼ばれ崇め奉られてきたナナミンが美しい虹色のドレスを纏って国王と隣国王太子夫妻の前を陣取った。

なかなかに怖い物知らずの無礼者である。

「隣国の王太子夫妻を前に、国王の挨拶を遮ってまで伝えたいこととはいったい何事だ」

眉間にシワを寄せるのは、この国の王様。

洗脳されていても、一応の礼儀は残っているようで頼もしい。

しかし、よくよく見ても国王の彼は、キヨノ達にとって前世の知り合いではないように思う。

どうやら、この場面に必要な大物モブといったところか。

王様がモブって一体···。

疲れたら思考が飛びそうになるのは、前世からのキヨノの悪い癖だ。

そんなキヨノの実態をよく知るチヒロから、脇腹への猫パンチを食らう。

毎度、キヨノの泣き所を知り尽くしたいいパンチだと思う。

緊張する場面でもマイペースにあるがままの自分を貫き通す、この姿勢は前世のキヨノそのものだ。

チヒロは猫パンチを繰り出しながらも、前世通りのキヨノの様子に安堵の息をもらすのだった。

そんな二人の掛け合いをよそに、ゲームのストーリーは勝手に進んでいく。

「恐れ入りますが、ここ場には、この国を背負って立つにはふさわしくない方々が同席されています」

「ほう?それは誰だと言いたいのか」

「王太子とその婚約者、そしてあちらにいる公爵令息並びにその婚約者にございます」

視線が一斉に四人に集中する。

本領発揮して得意の妄想にふけっていたキヨノだったが、流石に突き刺さるような周囲の視線を無視して妄想を続ける図太さはなく、背筋を伸ばしてチヒロの隣で凛とした佇まいを見せた。  

ちなみに今日は騎士団の制服ではなく、琥珀色の美しいドレスを身に纏っている。

「貴様がここで断罪を強行しようとする理由は何だ」

洗脳が効いていないような激しい口調の国王に、若干怯んだナナミンだったが、魔王の虹が西の空に輝き続けているのを窓の外に確認すると、勇気付けられたように大きな声で続けた。

「この四人は聖女である私を陥れ、人間の味方である魔王の尊厳を傷つけました。証人はここにいる貴族の皆様全員です」

居合わせた面々は、大きく縦に首を振り、そうだそうだ、と同意を口にしていた。

「王太子と公爵令息よ。反論はあるか?」

「反論しかありませんが、その前にやることがあります。国王の許可を頂けますでしょうか」

「それは反論以上に大切なことか?」

「もちろん、この国の国民を守るためにも大切なことです」

「よかろう。許可するゆえ、速やかに終わらせよ」

「何の悪あがきかしら?」

鼻で笑うナナミンが聖女のはずはない、とキヨノもアシゲール(滋子)も鼻で笑った。

「リオン。今だ」

黒装束に見を包んだ隠密春日が、空に向かって風魔法の呪文を唱える。

重ねてヒロムが結界形成の呪文を、千紘が氷魔法、アシゲール(滋子)が火魔法、キヨノが雷魔法の呪文それぞれに唱え始めた。

それは、空に描かれた虹を掻き消す魔法陣。

虹が消えさえすれば洗脳はとける。

空に浮かんで消えなかった虹は、5人の魔法で姿を消し、会場に渦巻いていた洗脳と魅了の魔法は瞬く間に消えていった。

「き、貴様ら、何をした」

魔法学科の担任に化けていた魔王エイジ(映二)は、慌てて窓際に駆け寄った。

彼が全魔力をかけて維持していた虹は
、跡形もなく消えて見えなくなってしまっている。

もう一度かけ直すには、エイジは魔力を使いすぎていた。

今日の断罪が終われば、人間世界は破滅に向かい、エイジとナナミンには勝利の祝福に満ちた二人だけの世界が約束されるはずだったのに···。

悔しさに顔面を崩壊させたエイジは、前世に続いてまたもやエイジの邪魔をした5人を睨みつけると、最後の魔力を振りしぼって攻撃を仕掛けた。

しかし、4ヶ月も呪いの洗脳魔法を維持し続けたエイジの残された魔力では、猫パンチほどの威力すら発揮できない有様であった。

「我々はどうしていたというのだ」

「何かに洗脳されていたかのように頭がボンヤリする」

先程まで王太子らを責める側に回っていた貴族たちが、困惑を隠せないといった言動を口にする。

「あなた達は魔王の黒魔術によって、この国を滅ぼすための呪いにかかっていた。その根源が西の空に架かっていた七色の虹。あれは希望の象徴なんかではない。七つの大罪を表す、煩悩の塊だったんだ」

死に至るとされる7つの罪。

それには諸説あるためここでは割愛するが、いずれも人間の欲に基づく大罪であるとされている。

魔王であるエイジも、前世の瑛二も人を人とも思わない、我欲に満ちた存在といえる。

そんな魔王が作り出した虹を打ち消すには、真っ向な魔術では対抗できない。

虹を消すには、国民の洗脳を消すという、矛盾した対応策が必要だった。

絵師であるチヒロとキヨノ。

パソコンの専門家であるヒロムとリオン。

それぞれの立場から、彼らは画面に映り込む虹や光の消し方を知っていた。

レンズのコーティングやフードの活用、ペイントブラシでの加工の仕方などなど。

四人は、前世の知識を使って、虹を消すのに必要な膜という結界を張り、そうして空に映る虹を人々の視界から遮ることによって洗脳を解除。

結果的に虹を消すことにも成功したのだ。

「く、くそう。前世についで現世までも私を馬鹿にして陥れるというのか」

「な、何よ。魔王になったっていうから協力してやったのに、また失敗したというの?私をお金持ちの王妃にしてやるって言うのは口先だけ?こいつらに復讐するっていう約束も果たせてないじゃない」

天使のように可愛く、聖女のように清らかに見えていた少女が、今は悪魔の化身に見える。

洗脳とは、魅了とは、げに恐ろしきものなり···。

と、貴族たちは真っ青になった。

というよりも、洗脳および魅了されていたとはいえ、己が口にした、王太子や公爵令息、その婚約者に向けた暴言の数々を思い出すと震えが止まらない。

貴族らは全員でその場にひれ伏し

「これまでの無礼の数々、どうかお許しください」

と、口々に謝罪の言葉を放った。

「国民が洗脳や魅了にかかっていたことは早い段階から把握していた。こちらこそ対応が遅くなって済まない。全てはこやつらが仕組んだこと。責任はこやつらに取らせる故安心するが良い」

「寛容な処置に感謝いたします」

居合わせた貴族らは一様に安堵の表情を見せた。

「隣国の王太子フミアキ殿、王太子妃マリー殿にはお恥ずかしい所を見せた。謝罪する故、許しては貰えないだろうか」

一国の王が頭を下げる姿に、フミアキ王太子とマリー王太子妃は微笑んでその謝罪を受け入れてくれた。

「国の危機に、力を合わせて立ち向かう。その絆と友情に深く感動を覚えました。これからも我が国は、貴国との関係を深めていく所存です」

フミアキ王太子の寛大な対応により、舞踏会は、何事もなかったかのようにその後、再開された。

何より彼らはフミアキ王太子の白魔法を魔王に利用されそうになったことなど一切知らなかったようで、そこもうやむやなまま終わった。

しかし、いつの間にか会場の外に連れ出された件の悪役二人は、秘密裏に隣国であるスイートパラダイスへと引き渡されたらしい。

幽閉の憂き目にあったと言われているが詳細は定かではない。

利用されそうになったことを知ったフミアキ王太子の報復なのか、本当のところは彼以外は知らない。

まあ、悪役の行く末をぼかして伝えられるのも全年齢向けのゲームや小説ではあるあるのテンプレだから、これでいいといえば、これでいいのかも。


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