悪役令嬢に転生した元絵師は、異世界でもマイペースを崩さない
「何だか、あっけない結末を迎えちゃったね」

「それもこれも、前世のチートな知識があったから成し得た技よ」

「そんなもの?」

「そんなもんよ」

過ぎてしまえば、大したことはないようなことでも、解決するまでは地獄のような日々だった。

精神的にも肉体的にも追い詰められ、前世どころか、今世の自分すら見失いそうになっていた。

「やっぱ、記憶を持ったままの転生は良くないよ。愛する人がいれば尚更。未練が全く無いならまだしも、そんな人、いるかいないかわからないレベルでレアだから。考え直したほうがいいね」

「でも、転生してしまったものは仕方ないでしょ?開き直って立ち向かったから、悪役令嬢にも明るい未来が訪れたんだし。もしも前世の記憶がなかったら、あんた、シナリオのまんま性格が荒れて、断罪されてたかもしれないんだからね?」

たられば、は言い出したらきりがない。

とはいえ、現世でも、悪役を懲らしめ、断罪を回避できたのは、素晴らしき友人達の救いの手があったからに違いない。

「みんなと一緒に転生できて良かった。これからもしあわせになろうね」

愛するチヒロと大切な友人達。

ちなみに、最後まで自我を保って悪に対峙していた、あの国王様は、前世でキヨノとチヒロがお世話になった、滋子ママのホテルの高級肉料理店の料理長だったらしい。

彼も転生者だったから洗脳はされなかったとのことである。

前世では、彼には美味しいお肉をご馳走になったり、酒を飲んで酔っ払った後の醜態を隠してもらったりと、色々と世話になっている。

モブとか言ってごめんなさい。

キヨノは心の中で、深く深く料理長に謝罪するのだった。

ともかく、悪役令嬢としてのキヨノの役目は終わった。

断罪回避のために騎士となったが、本当にやりたいことはそれではない。

しかし、社会人としては、一度始めたことを投げ出すことは許されないだろう。

チヒロも将来は宰相となることを期待される公爵令息だ。

絵は自宅で描いているが、前世での神絵が、現世受けする絵であるとは言い切れない。

かと言って、絵を描かない千紘や清乃は彼らとは言えないので、描かない選択肢はないだろう。

これからの未来には、断罪や絵を描くことを許されないといったこと以外の恐ろしい未来もあるかもしれない。

シナリオのない未来。 

本来あるべき姿に戻った今こそを大切に生きていこう。

キヨノは改めて、そう心に誓うと、男装令嬢の姿を維持したまま、みんなが待つ学園へと飛び出していった。


fin

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