Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
否定するべきか……。みのりは思い悩んだ。
一時の安らぎのために、〝信念〟を曲げるべきか。でも、それを曲げてしまうと、自分の言葉はその時々の気分で変わってしまう信じるに値しないものになってしまう。
そもそも、今更否定したところで、遼太郎はきっとそれを信じてくれない。もっと気を悪くする可能性だってある。
みのりがそんなのことを思い悩んでいる間にも、車はアパートの駐車場へと到着してしまった。
先に降りた遼太郎が、みのりが降りるのを待って、車のロックをかける。そして、やっぱり無言のままアパートの階段を上がった。
気まずい空気を払拭させたい。だけど、みのりは何も気の利いた言葉を見つけ出せず、
「遼ちゃん。運転してくれてありがとう…」
と、ドアの鍵を開けながら呟くように言った。
遼太郎からは何も返事はなかった。いつものように目を細めて応えてくれているのかもしれないけれど、みのりにはそれを確かめることさえできなかった。
ドアが閉まって、遼太郎が内鍵をかける。
みのりが靴を脱いで中に入ろうとした時、遼太郎に肩を掴まれた。次の瞬間、体を翻させられたかと思ったら抱きすくめられていた。
遼太郎に抱きしめられている……。それだけで、重苦しい空気に耐えていた心は安堵して、泣き出してしまいそうになる。
腕の自由が効かないみのりは、抱きしめ返すことはできなかったけれど、遼太郎の首根に額を着けて抱擁に応えた。