Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




「ほら、ここ。少し、痕が残ってる……」


みのりは遼太郎の左手を取って、その〝痕〟を指し示す。
確かにそこには傷痕がある。これが残ることとなった傷のことは、遼太郎もよく覚えていた。


脳裏に鮮明に映し出されたのは、この傷を負った場面ではなく、傷を抱えて保健室に行った時に目にした光景。
校舎と校舎を繋ぐ犬走りに立ち、夕焼けを見つめるみのりの姿だった。


あの時、遼太郎の胸が震えた。それから、いつでも遼太郎の目は、みのりを追い求めるようになった。
まだ両想いになるずっと前、遼太郎はその想いを自覚していなかったし、みのりも不倫というかたちで他の男と付き合ってた頃のことだ。


「……覚えてるんですか?」


あの時と同じように、遼太郎の胸が切なく震えた。
みのりは優しく微笑んで、「うん」と頷いた。


「遼ちゃんに関することは、ぜーんぶ覚えてるの。忘れるわけないじゃない」


みのりのその言葉が遼太郎の全身を駆け巡って、思わず泣いてしまいそうになった。愛しさが込み上げてきて、抱き寄せたくなる。
すると、みのりが少し自嘲ぎみに言葉を続けた。


「遼ちゃんと別れて一時は、忘れよう、忘れなきゃ…って必死で思ってたけど、どうしても忘れられなかったって言う方が正しいかもね」



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