Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




「……俊次くんの投げたあのボール、ちゃんとキャッチできてたら良かった…」


うつ伏せたまま、ポツリと出てきたみのりの呟きに、遼太郎は首を傾げた。


「……え?」


いきなり出てきた〝俊次〟に、遼太郎は戸惑ってしまう。すると、みのりがその先を続けた。


「だって、あの時ちゃんとキャッチしてたら、〝脳震盪〟の疑いなんてかけられなかったじゃない」


あの救急救命士の言ったことを忠実に守ろうとする真面目すぎる遼太郎が、こんな時みのりは本当に恨めしくなる。
反面、遼太郎がこの選択をするのも、遼太郎が何よりも自分を大事に思ってくれてるからだと、みのりも十分に分かっていた。


まるで愚痴のようなみのりの言葉を聞きながら、遼太郎は思わず口元が緩んでしまう。
それほど、自分と〝触れ合いたい〟と思ってくれていたなんて、遼太郎はみのりが本当に可愛くてしょうがなくなる。


声が笑ってしまわないように、遼太郎は慎重にみのりの後ろ頭に言葉をかけた。


「先生。今日は念の為に様子を見て、何も異常がなかったら、明日は大丈夫だと思います。俺が夜のOB会に行って帰ってくるのは、多分明日になる頃だと思うんですけど」


みのりの体が、またピクリと動いた。
遼太郎がの言葉の意味が伝わっているのか、何も返事は帰ってこない。

けれども、うつ伏せるその背中は、もう拗ねている空気を醸していなかった。



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