Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




そして、俊次はチラリと愛の居場所を確認する。

思い入れのある先輩を強いて答えるとしたら、それは愛しかいなかった。
きっと愛がいなかったら、ラグビー部には入っていなかった。後押しをしてくれたのはみのりだけれど、きっかけをくれたのは愛だった。

一年生のあの時、愛のしつこい勧誘でラグビー部に入っていなかったら、今の自分はいなかった。何も誇れるものもない、漫然と毎日を送るだけのつまらない人間になっていただろう。

そう言った意味では、俊次は愛に感謝はしていた。


愛はちょうど部室の出口のところで、2年生のマネージャーからお礼を言われていた。〝最後〟を意識すると誰もが感傷的になるようで、2年生のマネージャーが涙ぐむと愛が優しくその肩を抱きしめてあげていた。


俊次もそこへ行って、今手の中にあるお守りを渡してしまおうかと思った。

足が動きかけた時、やっぱり思いとどまった。なぜだか分からないけれど、このお守りは〝あんなふうに〟渡してはいけないような気がした。


——できたら誰もいないところで、もっと気持ちを落ち着けないと……。


愛を目の前にすると、自分も思っていなかったような憎まれ口が口を衝いて出てきてしまうことは、俊次も自覚していた。
少なくとも、今日はそれをしてしまったらダメだと思った。もう言葉を交わす機会もほとんどないのに、口喧嘩をして終わらせてはいけないと思った。



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