Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




何か言って反応しようにも、現実に気持ちが追いついてきていない。


「……頑張れよ!!」


俊次の声が力強い響きとなって、愛の体中に伝わってくる。


「何があっても、最後まで諦めちゃダメだ。絶対、合格する!!だから……頑張れ!!」


俊次の馬鹿力でますます強く抱きしめられて、愛は苦しいくらいだった。『ありがとう』どころか『うん』の一言も言えなくて、愛は涙が溢れてくるのを止められなかった。


俊次は自分の中の思いや有り余るほどのパワーが愛へと伝わるように、少しの間そのまま動かなかった。そして、納得したように腕の柵の中からそっと愛を解放する。


「…それじゃ、俺、先に帰るから。戸締り頼む」


短くそう言ってバッグを担ぐと、愛と目も合わせないまま部室を出て行ってしまった。


部室の中に一人取り残された愛は、茫然としてその場に立ち尽くした。
自分の身に何が起こったのか、きちんと理解するためにはしばらく時間が必要だった。ただ、涙がポロリと目から零れて、ドキンドキンと激しく飛び跳ねる心臓の音だけが耳に響いていた。


部室から走り出た俊次も、すぐに息苦しさを感じて、グラウンドを出た所で歩き始めた。
そんなに走ってきたわけでもないのに、まるで試合が終わった直後のように、胸の鼓動がドキンドキンと鳴り響いている。



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