Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




「はああ?それが〝伝統〟?!くだらねー」


この話を聞いた時の俊次は、そう言って遼太郎の言ったことを鼻で笑っていたのだが……。


——あいつらだって、兄ちゃんの言ってた〝伝統〟やってたし……。


先程の部室で、二年生が同じフッカーの三年生をしっかりと抱きしめて激励していた光景。これを目撃した俊次は、確信していた。
遼太郎の言っていた〝伝統〟は、暗黙のもとで存在していることを……!


だから、愛へのあの行動は、この〝伝統〟に則るもので、それ以外の意味があるものではない。
俊次は胸の中のモヤモヤを蹴散らすために、そんなふうに自分で自分に言い訳するのに必死だった。


「ま、なんでもいいから、とにかく!合格すればいいな!」


俊次は顔を上げて、力強くつぶやいた。
なんでもいいから、あの時の俊次は愛の力になりたいと思っていた。あの時はああする以外、他に方法を見つけられなかった。


家々の屋根の向こう、盆地を囲む山々の稜線から、太陽が明るく俊次の顔を照らしてくれている。夕方に差しかかり、冬の冷たい空気が辺りに漂い始めても、俊次は少しも寒くなかった。

なんだか〝やり遂げた〟という充実感が、体も心も満たしていた。この暖かい光と同じように、俊次の心もとても温かくなって、思わず走り出したくなる。


そこで、俊次はハッとして気がついた。



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