Rhapsody in Love 〜二人の休日〜
それは、試験のことだけではなく、俊次のことも。
俊次は愛を抱きしめてくれたけれど、あれは〝好き〟という感情を伴ってないことは、愛にも分かっていた。
だけど、少なくとも嫌っている相手に対して、あんな激励はしない。今の愛には、それだけでも十分だった。嫌われていないだけで、すごく嬉しかった。
俊次とは想いを通じ合わせるところにたどり着くのは、ずいぶん先になるかもしれない。最終的には、この想いは報われることなく終わってしまうのかもしれない。
——でも、諦めないよ。だって、みのりちゃんが言ってた『本当に人を好きになる』ってどういうことか、やっと分かったんだもん。
〝なんとなく好き〟なんかではなく、〝本物の恋〟は、今日これから始まるのだと思った。
愛は、壁のフックに掛けられていた部室の鍵を手に取った。そして、ドアを開けて出ていく時、そこで振り返って、もう一度部室の中の目になじんだ風景を見回した。
「三年間、本当にどうもありがとう」
そう言って深く一礼すると、静かにドアを閉めて、そこに鍵をかける。
大事な思い出の数々をそこにそっと仕舞って、愛は新しい一歩を踏み出した。