Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




「先生はゆっくり休んで体力温存しててください。今夜は寝かせませんから」


玄関のドアを開けて出て行く前、そう言ってみのりを振り返ってみる。


「え?寝かせ……?」


みのりの問い返す言葉が途切れ、その言葉の意味を理解する間にも、みるみる顔が真っ赤になった。

遼太郎はその顔を確認すると、意味ありげに微笑み、


「行ってきます」


と、ドアの向こうに姿を消した。


頭の中に充満している甘く淫らな想像が消えてくれるまで、みのりは両手で顔を覆い、遼太郎が出て行ったドアの前に立ちすくんでいた。

そして、漸く顔を上げて、ドアの鍵をかける。


「……もう!遼ちゃんたら!あんなこと平気な顔して言うような人だった?」


と独り言を言いつつ、それは誰でもないみのり自身が望んでいたことだった。

大きく息をついて落ち着きを取り戻すと、反対側のベランダへと向かう。


遼太郎は橋に向かって、歩いているところだった。
洗濯物を避けてベランダの手すりにもたれ、遼太郎の遠ざかって行く背中を見つめる。ただそれだけで、ドキドキと胸が鼓動を打った。

初めて恋をした時のように、年甲斐もなくこんなにも胸がときめいて純粋に想うことができるのは、相手が遼太郎だからだと思う。

遼太郎の真っ直ぐに想ってくれる素直さや健気さが、みのりの身も心も真っ(さら)にしてくれるようだった。



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