Rhapsody in Love 〜二人の休日〜




——いや、先生だったら、俺が見えなくなるまで、きっと見送ってくれるだろう。


あの三年前の春の別れの時、この橋の上からずっと見送ってくれていたように。
だから、なるべく早くここから姿を消してしまなければ、みのりをずっと吹きさらしのベランダに居させることになってしまう。

何より、言葉を交わしてしまうと、あの居心地の良い場所に還りたくなってしまう。


遼太郎は意を決して、みのりから視線を外し歩き始めた。
たった数時間出かけるだけで、こんなにも名残惜しいのに、明日ここを離れて東京に戻る時には、どれだけ辛いことだろう。

今すぐにでも、みのりのもとへ走り出したい衝動に駆られながら、遼太郎はただ足を前に動かすことに専念した。



遼太郎のモッズパーカーの背中が見えなくなるまで見送って、みのりはそこにある洗濯物を取り込んだ。
まだ湿っぽいそれらを、もう一度室内に干し直す。それから、遼太郎と並んで座っていた場所にもう一度落ち着いた。


いつも一人でいるはずの場所なのに、遼太郎がいなくなっただけでとても広く、まるで違う場所のように感じる。まだ出て行って10分程度しか経っていないのに、もう会いたくて仕方がない。


「遼ちゃん……なるべく早く、帰って来てね」


思いを声に出すと、いっそう恋しくなって涙で目が潤んでくる。



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