あの雨の日、橋から飛び降りようとしたのを助けてくれたのは"君"でした
生まれてきたことも否定されて…。
たった一人の母親に暴力暴言の毎日。
父親には物のように扱われて…。
クラスでもいじめで居場所を奪われて…。
ねぇ、幸希先輩。
貴方はこんな冷たく暗いところで一人…闘っていたんですか?
貴方のお父さんに届いただろうか?
伝わっただろうか?
僕は力が入らなくて胸ぐらを掴む手がだらんと落ちた。
「幸希先輩は…いつも笑っていました。どんなに辛く…苦しくても明るく振る舞っていました」
家庭内がどうでも…幸希先輩はいつも笑っていた。
どんなに苦しくても…辛くても…。
僕はそんな幸希先輩が眩しくて憧れの人だった。
何も知らなくて…幸希先輩に手を引かれるまま僕は幸希先輩の後を追っていた。
温かくて…心地よかった。
幸希先輩……死なないで……っ。
僕はまだ貴方に……思いを伝えていない。
「幸希は……」
小さな声で…震える声で……そう言ったのは幸希先輩のお父さん。
「幸希は幸せでは…なかったのか?」
と、そう言った。
まるで幸せな毎日だったと思っていたみたいな言い方だ。
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