冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

2人の時間


家に着き2人きりになり、
どうしようも無く空気が重くなる。

香世は冷えた部屋を温める為、
木炭に火を付けたり火鉢の準備に追われている。

正臣は風呂でも沸かそうと思い立ち、
暗い廊下に出て風呂場に向かう。

「正臣様、お風呂の準備は私がやります。
お疲れでしょうから、お部屋でお寛ぎ下さい。」
正臣の動きを素早く感知した香世が、
後ろを小走りで追いかけて来る。

正臣は足を止めて振り返り、
香世が向かって来る足元を行灯で照らす。

「大丈夫だ。風呂ぐらい俺でも沸かせる。」

「いえ…、家では出来るだけのんびり過ごして頂きたいのです。」
困り顔で俺を見てくるが、
俺とて手持ちぶたさで何か動いていないと
要らぬ事を考えて苦しいのだと心で思う。

先程、軍病院の廊下で中断された話の続きをしなければならないと思うのに、
香世を失うかもと思う気持ちが重たくのしかかり、話し出す事に躊躇してしまう。

譲れない思いで2人風呂場まで一緒に歩く。

湯船のお湯に触れてみるとまだ幾分温かい。

正臣はたたきに降りて釜に火を焚べる。

「先にお風呂にお入りになりますか?
今着替えをお持ちします。」

「そうだな。汚れたし先に入るか。」
正臣がそう言うと、
香世は着替えを取りに
またパタパタと部屋に戻って行く。
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