冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「龍一君は何にしたの?」

「僕はバイオリンを演奏をしようと思って練習してきたんだ。」

「凄いね。龍ちゃんバイオリン出来るようになったの⁉︎それは姉様も楽しみ。」

「大姉様が昔習ってたみたいで教えて貰ったんだ。」

そう言えば、私がピアノに夢中になっていた頃、姉がバイオリンを弾いて、一緒に演奏した事があったと香世は思い出した。

「凄い龍一君。バイオリンなんて私初めて見た!!」
真子も驚いて物珍しそうにバイオリンが入ったケースを見つめている。

「ピアノと大人のバイオリンは質に出されちゃったけど、子供の頃のバイオリンは思い出があったから手離せなかったんだって。」

龍一はバイオリンケースを開け大事そうに取り出す。

「こうやって弾くんだ。」
と、真子に自慢げに音色を奏でて聴かせる。

「凄い!凄い!!」
と真子も褒め称え龍一も嬉しそうだ。

「香世姉様はピアノが弾けるんだよ。
これでも昔は公爵家だったんだから。」
そう言って語る龍一を香世は笑いながら見つめる。

自分の人生を卑下せず、逞しく素直に育っている弟の姿を見てホッと安心した。

お姉様は裕福だった頃から抜け出せず、
バイオリンを手放すなら私の価値は無くなるわ。
と、嘆いていたけれど…

バイオリンやピアノが無くても生きていける。姉も何か好きな事を見出して逞しく生きて欲しいと願っている。

「大姉様がね。
バイオリン教室でも開こうかって言ってたよ。」
龍一がそっと香世にそう教える。

「本当⁉︎それは素敵ね。
好きな事で生計を立てるのは悪い事じゃないわ。私はお姉様を応援するって伝えておいてね。」

少しずつでも現実を受け止めて、
地に足を付けて生きて行って欲しい。

「お父様はどう?最近は何をしているの?」
香世は1番気になっていた事を龍一に聞く。

「お父様はこのところ飲み歩くのを辞めて、
骨董品の手入ればかりしているよ。
あの中の1つでも売ってくれたら、
家計の足しになるのにってマサが嘆いてるよ。」

ふふふっと香世は笑い、
ついマサのぼやきを想像してしまう。

「きっと、お父様が骨董品を手放す日は近いと思う。私は少しでも家族の事を思ってくれている事を祈ってる。」
香世は龍一にそう言って微笑む。
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