推し一筋なので彼氏はいりません
私の家は学校から歩いて10分ほどのところで、そんなに遠くもない。
だから佐山先輩が朝に教室に話に来るくらいの時間で着いてしまう。
「じゃあ、ここなので。」
「わかりました。
ではまた明日。」
「はい。」
ここで拒否しても多分変わらず教室の前で待っているんだろうし、言うだけ無駄だと思って、大人しく返事をする。
笑顔で手を振る先輩に軽く会釈をして家に入る。
「ちょっと愛衣!!今のイケメン誰!?」
家に入ってすぐバタバタと駆け寄ってきたママに、靴を脱ぐ暇もなく早口で質問される。
「え、ママみてたの?」
「見てたっていうか見えたっていうか。で、誰?」
「学校の先輩。」
「愛衣の好きな人?」
「全然。」
「じゃあ愛衣のことを好きな人かしら?」
「……知らない。
ていうか、こんなこと話してる場合じゃないの。いまから遥斗くん見返さないと!」
「はぁ…、愛衣はずっと遥斗くん遥斗くん言っちゃって。いつ卒業するのやら。」
「卒業はしません!
そんなこと言ってママも七瀬くん七瀬くん言ってるじゃん。」
七瀬くんはママが何年も推してるアイドル。
私が遥斗くんを好きになったのは6年くらい前だけど、ママはそれよりも前から七瀬くんを推してる。
「ママはいいの〜。
それにパパが1番好きだから♡」
「はいはい。じゃあ部屋いくから。」
このままだと親の惚気を聞かされる羽目になりそうだったから、急いで自分の部屋に避難する。
親の仲がいいのはいいことだけど、両親のイチャイチャを見るのはちょっと恥ずかしいものがあるからやめて欲しい。