突然、あなたが契約彼氏になりました
「実は、あなたと田中さんが飲んだ、お洒落なバーに一人で入ったんですよ。事件の現場検証というやつです」
なぜだろう。小塚は話の途中で憂鬱そうに溜め息を漏らしている。
「僕が、バーの片隅で一人でチビチビと飲んでいたら、ロレックスの時計をはめた白髪の田村正和さんに似ている紳士にナンパされたのです。お金をあげるから服を買いなさい。ホテルに行こうと言われました」
「えっ? まさか」
「そうなんですよ。僕、貧しそうに見えたみたいでショックでした」
いや、菜々がショックを受けたのはそこじゃない。ダンディなおじさまが小塚を男娼ように扱って買おうとしたところだ。
「そのバーのお客さんの殆どが男性なんです。ボーイッシュな女性もいましたが、よく見てみると女同士でキスしていました。どうも、そのバーは同性愛者の方達の出会いの場みたいなんです。もちろん、普通の男女のカップルもいましたが、ゲイの方がやけに多かったんです」
「なるほど。田中さんも、そこが、そういう特別なバーとは知らずに入ってしまったのかもしれませんね」
「念の為に、常連らしき田村正和似の紳士に田中さんの写真を見せたんです。僕の許婚が、この男に言い寄られて困ってると打ち明けたら、紳士が吹き出したんです。匠は、こんなチンチクリンの小娘に興味はないって。高校生の頃から、この店のオーナーの樹理と高校生の頃から付き合っているって言うんです」
「ジュリさんですか……」
それを聞いて、菜々は、ようやく腑に落ちた気がした。
「そっか、分かりましたよ。田中さんは、元カノのことなんて何とも思っていなくて、それで、その店にあたしを連れて行ったんですね。だから、元カノがあたしに意地悪をしたのかも……。いやぁ、それならすべて筋が通ります」
失恋のショックで元カノは睡眠薬を服用していたのかもしれない。それを、こっそりと菜々のカクテルに混ぜたのかもしれない。
(それなら、この事件も説明がつくじゃないの!)
菜々は、勝手に話をまとめようとしていると、小塚がそれを根底からぶち壊した。
「いや、それがですね、樹理さんのフルネームは鰐淵樹理です。三十五歳のジョニーデップ似のイケメンオーナーなんです。男の方ですよ」
「あっ……」
その時、菜々の脳内で母親の漫画の華麗なる濡れ場のシーンが浮かび、バラの花びらが舞い散ったような気がした。
「もしかして、田中さんは、あっち側の人なのですか……」
「そのようですね」
小塚は、少し物憂げな表情のまま淡々と告げている。
「最初に、田中さんを怪しいと感じたのは徳光さんなんですよ。田中さんの私生活について、徳光さんは色々と知っているのかもしれませんね。あの人にも話を聞いてみますね」
はぁ、そうですかと言ったものの、菜々は、その帰り道、悶々としていた。
なぜだろう。小塚は話の途中で憂鬱そうに溜め息を漏らしている。
「僕が、バーの片隅で一人でチビチビと飲んでいたら、ロレックスの時計をはめた白髪の田村正和さんに似ている紳士にナンパされたのです。お金をあげるから服を買いなさい。ホテルに行こうと言われました」
「えっ? まさか」
「そうなんですよ。僕、貧しそうに見えたみたいでショックでした」
いや、菜々がショックを受けたのはそこじゃない。ダンディなおじさまが小塚を男娼ように扱って買おうとしたところだ。
「そのバーのお客さんの殆どが男性なんです。ボーイッシュな女性もいましたが、よく見てみると女同士でキスしていました。どうも、そのバーは同性愛者の方達の出会いの場みたいなんです。もちろん、普通の男女のカップルもいましたが、ゲイの方がやけに多かったんです」
「なるほど。田中さんも、そこが、そういう特別なバーとは知らずに入ってしまったのかもしれませんね」
「念の為に、常連らしき田村正和似の紳士に田中さんの写真を見せたんです。僕の許婚が、この男に言い寄られて困ってると打ち明けたら、紳士が吹き出したんです。匠は、こんなチンチクリンの小娘に興味はないって。高校生の頃から、この店のオーナーの樹理と高校生の頃から付き合っているって言うんです」
「ジュリさんですか……」
それを聞いて、菜々は、ようやく腑に落ちた気がした。
「そっか、分かりましたよ。田中さんは、元カノのことなんて何とも思っていなくて、それで、その店にあたしを連れて行ったんですね。だから、元カノがあたしに意地悪をしたのかも……。いやぁ、それならすべて筋が通ります」
失恋のショックで元カノは睡眠薬を服用していたのかもしれない。それを、こっそりと菜々のカクテルに混ぜたのかもしれない。
(それなら、この事件も説明がつくじゃないの!)
菜々は、勝手に話をまとめようとしていると、小塚がそれを根底からぶち壊した。
「いや、それがですね、樹理さんのフルネームは鰐淵樹理です。三十五歳のジョニーデップ似のイケメンオーナーなんです。男の方ですよ」
「あっ……」
その時、菜々の脳内で母親の漫画の華麗なる濡れ場のシーンが浮かび、バラの花びらが舞い散ったような気がした。
「もしかして、田中さんは、あっち側の人なのですか……」
「そのようですね」
小塚は、少し物憂げな表情のまま淡々と告げている。
「最初に、田中さんを怪しいと感じたのは徳光さんなんですよ。田中さんの私生活について、徳光さんは色々と知っているのかもしれませんね。あの人にも話を聞いてみますね」
はぁ、そうですかと言ったものの、菜々は、その帰り道、悶々としていた。