突然、あなたが契約彼氏になりました
先刻、小塚の中に大河のような熱い魂の片鱗を垣間見たような気がする。
「田中さんはあなたに狙いを定めています。だから、僕の事を何としてもあなたから引き剥がそうとして必死になっていますね。やっぱり、彼は、あなたと結婚する気なんですよ」
「でも、なんで、田中さんは、あたしと結婚したいのかな……」
「ふふ、そのうち分かりますよ」
「ええーー。なんで、教えてくれないんですか」
「そう焦らないで下さい」
田中が、どうして菜々に執着するのか、小塚は見当がついているようである。今は、教えられませんと言っている。
小塚はスプーンで米粒をひとつ残らずすくって最後の一粒まで食べ終えると、ごちそうさまと手を合わせた。そして、彼は、正義の天秤を手にした大天使様の様な顔で厳かに宣言していたのだった。
「やはり、あいつはクロですね」
☆
菜々を見る総務の女子達の視線がいつもと違う。何だろうと思っていると、お昼休みに、女子トイレでコソコソと囁き合う声を聞いてしまった。
「小塚君ってさ女児が好きって本当なのかな?」
「うっそー。だって、土屋さんとラブラブじゃん」
「でもさ、小塚君って、ちょっとサイコパスなところあるもんね。ああいうのに限って、ヤバイ裏の顔があるんじゃない?」
「やっぱ、あたしは王子の方がいいなぁ。今朝も、あたしのブランドのバッグを褒めてくれたの。いつ見ても、お洒落だし、ダサイ小塚に用はねぇわ。だって、あの人って、なーんも褒めてくれないんだもん」
前は、あんなにキャーキャーと言っていたのに何のなのよと言いたくなる。
「ネットによると、小塚はクソ貧乏なんだって。そうだと思ったわ。小塚、河原の菜の花を摘んでおひたしにするって言ってた。ダサッ。ほんと、ダサいよね」
菜の花のおひたしの何が悪いというのだろう。
田中は確かにお洒落だが、この会社のお給料で、そんなもの買えるのは親が裕福だからである。おそらく、大学の学費や生活費を親が丸ごと出したのだろう。
(多分、母子家庭の小塚さんは学費を親に頼れなくて自分で返済しているんだわ)
おかしいのはむしろ田中だ。毎日、一流芸能人のように着飾っているんだもの。
「お弁当も一人で食べてるし、あの人、暗いよね。つーか、ネクタイとか時計とか古臭いよね」
キャハハと笑う声を耳にすると耐えられなくなってきた。拳を握り締めると爪が皮膚に食い込んだ。
自分でもよく分からないが、切々とこみあげてきたものに胸を突かれてしまい、衝動的に女子トイレから飛び出していた。
「小塚さんはダサくありませんっ! 暗い人でもありません!」
なぜだろう。猛烈に腹が立っている。三十路の先輩達を睨んでいたのだ。いつもはおとなしい菜々の目が血走っている。はぁはぁ。息も粗くなっている。
「田中さんはあなたに狙いを定めています。だから、僕の事を何としてもあなたから引き剥がそうとして必死になっていますね。やっぱり、彼は、あなたと結婚する気なんですよ」
「でも、なんで、田中さんは、あたしと結婚したいのかな……」
「ふふ、そのうち分かりますよ」
「ええーー。なんで、教えてくれないんですか」
「そう焦らないで下さい」
田中が、どうして菜々に執着するのか、小塚は見当がついているようである。今は、教えられませんと言っている。
小塚はスプーンで米粒をひとつ残らずすくって最後の一粒まで食べ終えると、ごちそうさまと手を合わせた。そして、彼は、正義の天秤を手にした大天使様の様な顔で厳かに宣言していたのだった。
「やはり、あいつはクロですね」
☆
菜々を見る総務の女子達の視線がいつもと違う。何だろうと思っていると、お昼休みに、女子トイレでコソコソと囁き合う声を聞いてしまった。
「小塚君ってさ女児が好きって本当なのかな?」
「うっそー。だって、土屋さんとラブラブじゃん」
「でもさ、小塚君って、ちょっとサイコパスなところあるもんね。ああいうのに限って、ヤバイ裏の顔があるんじゃない?」
「やっぱ、あたしは王子の方がいいなぁ。今朝も、あたしのブランドのバッグを褒めてくれたの。いつ見ても、お洒落だし、ダサイ小塚に用はねぇわ。だって、あの人って、なーんも褒めてくれないんだもん」
前は、あんなにキャーキャーと言っていたのに何のなのよと言いたくなる。
「ネットによると、小塚はクソ貧乏なんだって。そうだと思ったわ。小塚、河原の菜の花を摘んでおひたしにするって言ってた。ダサッ。ほんと、ダサいよね」
菜の花のおひたしの何が悪いというのだろう。
田中は確かにお洒落だが、この会社のお給料で、そんなもの買えるのは親が裕福だからである。おそらく、大学の学費や生活費を親が丸ごと出したのだろう。
(多分、母子家庭の小塚さんは学費を親に頼れなくて自分で返済しているんだわ)
おかしいのはむしろ田中だ。毎日、一流芸能人のように着飾っているんだもの。
「お弁当も一人で食べてるし、あの人、暗いよね。つーか、ネクタイとか時計とか古臭いよね」
キャハハと笑う声を耳にすると耐えられなくなってきた。拳を握り締めると爪が皮膚に食い込んだ。
自分でもよく分からないが、切々とこみあげてきたものに胸を突かれてしまい、衝動的に女子トイレから飛び出していた。
「小塚さんはダサくありませんっ! 暗い人でもありません!」
なぜだろう。猛烈に腹が立っている。三十路の先輩達を睨んでいたのだ。いつもはおとなしい菜々の目が血走っている。はぁはぁ。息も粗くなっている。