突然、あなたが契約彼氏になりました
「きっと、徳光さんは、過去のことなんて、あなたに知られたくないんですよ。スボンを履いて男子校に通っていたなんて……。死ぬほど屈辱的な事だから。これからも、あなたは何も知らないフリをして下さいね。僕は、同じ高校に通っていたから、知られても仕方ないと徳光さんも納得していますけどね」

「それにしても、お金目当てとは……」

「田中さんとしては、土屋さんと朝を迎えて大好きだよと囁いて丸め込もうとしたんだと思います。そうやって、最短距離で結婚をして仲良く暮らした後で、あなたを殺せばいいんですよ。あなたの貯金も豪邸も田中さんと樹理で山分けすればいい。これまで通り二人は愛し合い、贅沢な暮らしを享受できますからね」

 殺人……。背筋に冷たいものが走る。眩暈を覚えた。

 ああ、そうなのか。たまたま、菜々は、王子様系の男子に感心がなかったが故に騙されずに済んだという事だ。

「面食いでなくて本当に良かったです。だけど、あたしが結婚や交際を拒み続けた場合は、彼等はどうするつもりだったのかな?」

「徳光さんが怖れていたのはそれなんですよ。樹理の借金返済の為なら、どんな事でも田中はやったと思いますよ。カードを盗んで暗証番号を聞き出して、あとは金融会社の下請けの奴等があなたの遺体を廃棄するとか……。輪姦して、その映像を流されたくなければ金を払うように要求するとか……。いくらでも、金を搾り出すことはできます」

「えーーーーっ。やだーーー。死にたくない。犯されたくない」

 ムンクの叫びに似た表情で思わず絶叫すると、小塚はクスクスと笑った。

「な、なんで笑うんですか」

「すみません。土屋さんって大人っぽいのか子供っぽいのかよく分からないなぁと想って。家族を失う大きな悲しみを抱えていても、いつも、ゆんわりと微笑んでいるし、みんなが、徳光さんにキツクあたっても、あなたは悪く言わないところが素敵だなと想ってました。だって、世間の人って、人とは違うものに容赦ないじゃないですか」

 その言葉の裏には何か哀しいものが滲んでいるような気がしてドキッとなる。

「小塚さんも、誰かに意地悪された事があるんですか?」

 すると、彼は、唇の端を歪めて少し声を詰まらせた。

「ありますよ」

 実は、前々から何となく小塚の中に憂いのようなものを感じていた。もしかしたら、心を切り刻むような酷い体験をしてきたのかもしれない。

「母はモラハラ夫のDVから逃れていました。母は看護師でした。今は、認知症になってしまって施設にいます。父親のせいで僕は困っています」
 
「えっ……」

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