夕日みたいな君と,時間を忘れて手を繋ぐ。
第5話 水面に光る
「ったく」
「ん?」
「男二人引っ張って温水プールとか,ちょっと頭おかしいんじゃないの」
登ったばかりの太陽。
唇を可愛くすぼめた男の子,もとい春陽くんは,今もまだ乗り気じゃないみたい。
そんな春陽くんを気にせず,私はあははと笑った。
「いいじゃないのたまには。交通費も全部全部私の奢りなんだから。ね,堤くん。春陽くんの復帰数日記念だよ」
二人の家でお夕飯を頂いた日の翌週。
その月曜日に,彼は私の呼びかけに応え登校した。
その翌日は昼で早退し,その後2日休んで金曜日にはもう一度1日中学校で過ごしたそう。
その労いに私は堤くんも伴ってこのレジャー施設,大型プールに彼を連れてきたのだ。
「お友達,出来たんでしょ? その子も誘えばよかったかな」
「冗談。だいたいポケカの話しただけで,まだ友達でもなんでもない」
「えー? まあいいや。じゃあ今日は水入らずってことで」
「……何の?」
堤くんのツッコミは,あえて流させてもらう。
「でも良かった。ふたりとも水着持ってて。似合ってる」
「男の水着に似合うもクソもないでしょ」
ふんっと逸らした春陽くんの言葉に,私はふと首を傾げた。
「女の子は?」
「は?!」
唇を嚙む春陽くんが勢いよく振り向く。
「……っうるさいよ!」
怒ったように顔を赤くして,春陽くんはずんずんと進んだ。
「あっちょっと待ってよ。危ないよ〜」
「危なくない!」
「もーー」
つられて早歩きになる。
と,
「あ…?」
つるんと,滑ったのは私だった。
さらりとラッシュガードに何かが触れたと思うと,2人分の衝突音が辺りに響く。
たくさんの視線を浴びながら,私はパチパチと瞬いた。