婚約破棄された王太子を慰めたら、業務命令のふりした溺愛が始まりました。2
 為政者として冷徹で他者を寄せつけない覇気がフィル様から放たれていて、思わず見惚れてしまった。

「まず、ラティシア・カールセンの治癒能力について。これは僕自身が体験しているが、他の専属治癒士以上の回復力があり、魔法の対象は全身に及ぶ。先ほどの映像は最初の治療後数日経ってからの訴えばかりであるのと、治療後の証明書へ本人自らサインもしている。従って先ほどのクレームは悪意をもって僕の婚約者を貶めようとしているものだ」
「恐れ入りますが、フィルレス殿下こそ証言のみで確固たる証拠がございません!」
「まさか僕が証拠もなしに発言すると思っているのか?」
「え……? し、証拠があると?」

 フィル様が事務官へ視線を向けると手首につけた魔道具を使って、どこかへ合図を送った。程なくして別室で待機していたのか、アイザック様が映像水晶や書類を持ち会議室へ入室してきた。

 オズバーン侯爵は一度席に戻り、今度はアイザック様が証言台に立つ。

「アイザック、最初は僕の執務室の映像だ」
「承知いたしました」

 アイザック様はオズバーン侯爵の映像水晶と入れ替えて、新たな映像を流しはじめた。

 会議室の中央に私が婚約者として不適格だと詰め寄る貴族たちと、それを論破していくフィル様が映像と音声で流れていく。

『……要するに、僕の婚約者を貶めるためにこんなクレームをつけたということだな?』
『いえ! そのようなことは決してございません!』
『そうです! 私たちはただ、命令されて……!』
『おい! お前、なにを口走っているのだ!?』
『へえ、命令ね。誰から?』

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