浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
 テオドールは、身体中に力が戻ってきたことを感じた。筋力不足は否めないが、恐る恐るベッドから立ち上がる。

「身体が……軽い……! これが、聖魔法なのですか?」
「恐らく。私も初めて使用しましたし、二度と使えないと思われるので、不確かですが。お身体は大丈夫ですか?」
「はい……! 医師からも原因が分からないと匙を投げられていたのです。身体中の力が上手く入らず、立つことも辛い日が増えてきていて……。ああ……! こんな日が来るなんて……!」

 筋肉不足までは改善されなかったようで、数歩進んだところでよろけてしまった。慌ててセリーヌが立ち上がり、テオドールの身体を支える。

「ありがとうございます」
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ! 先程までと雲泥の差です!」

 テオドールはセリーヌの足元に跪いた。そして彼女の手を取り今度こそ正しく求婚する。

「セリーヌ嬢。貴女のような素晴らしい女性を妻に迎えることが、私の最期の誉れなのだと思っていました。しかし、貴女がこの身体を治癒してくださった! あぁ! こんな幸せが私の身に起こるなんて! 私はセリーヌ嬢を唯一の妃とし、生涯愛し抜きます。貴女とこれからも生きていきたい! これから先ずっと、私を側に置いていただけませんか?」
「ふふ。喜んで」
「あぁ! なんという僥倖!」
「ふふふっ」

 少しはしゃいだ声のプロポーズに、セリーヌはクスクスと笑う。テオドールの無邪気なプロポーズが嬉しかった。セリーヌが声を出して笑ったのは、久しぶりのことだった。

 そして、手を取り合いゆっくりとベッドに戻る。
 セリーヌの魔法は一度きり。この世界で魔法が使える者は珍しく、悪い意味で注目されることもある。もう二度と使えないものに言及されても困るので、周囲には内緒にすることにした。

 とはいえ、せっかく病が完治したのだ。テオドールはすぐにでも、セリーヌの両親に挨拶したいし、セリーヌとお茶をしたりデートをしたり、夜会に出てダンスを踊りたい。だが急に回復しては変に思われる。

 しかし、まさかセリーヌが聖魔法を使えただなんて、誰も思い付かないだろうという結論になった。

 そうしてわずか三日後、テオドールは全回復したことを周囲に露見したのだった。



「テオドール!」

 部屋に入るなり王妃はテオドールを抱き締めた。セリーヌが聖魔法を使用したのは三日前。彼女が秘密にしてほしいと懇願したので、バレないように徐々に回復したフリをしたのだ。

「宮廷医から連絡が来て……貴方の病が奇跡的に治ったって……!」
「ええ。セリーヌと婚約すると決まってから、みるみる調子が戻ってきたのです。彼女は私の幸運の女神に違いない」
「まぁ……!」

 王妃は歓喜に震え、涙を浮かべて喜んだ。知らせを受けて議会の後に駆け付けた国王も、息子の回復を心から祝福したのだった。



「で? どういうカラクリ?」

 あっという間に回復し、優雅にティールームでお茶を飲む友に、フィルマンが疑問をぶつけた。

「強いて言えば、『愛の力』かな?」

 微笑むその顔は、まだ少しほっそりと痩せこけたままだが、顔色は随分良い。

 唯一無二の友人が、徐々に弱っていく──。その姿を目の当たりにしていた自分は、何も力になれなかった。その悔しさはある。だが、自分の姉が、(どんな力技を使ったのかは不明だが)友を救ったのはどこか誇らしい。

 長年、友の気持ちを知っているからこそ、幸せそうに微笑む顔を見ることができて、素直に嬉しい。

 何故急に回復したのか、言う気はなさそうだが、まぁ幸せそうなら良いか、と、フィルマンはため息をひとつ吐いた。
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