浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
4 今はすこぶる元気なので

 第二王子テオドールが立太子する、と議会で決議された日の夜。

 王都のとある屋敷で、男達が酒を交わしていた。皆、祝賀モードとは程遠い面持ちで、表情は固い。

「まさか、あの病から回復なさるとは……」

 貴族の男は悔しそうに顔を歪ませた。もう一人の男は怒りを露わにし、自身の拳をテーブルに叩きつけた。

「アイツはこのまま弱っていくのではなかったのか? 話が違う!」
「もっ、申し訳ございません。私も何が何だか……!」
「くっ! このままでは玉座を奪われてしまう!」

 歯軋りをしつつ酒を煽るのは、国王陛下によく似た金色の髪とテオドールと同じ翡翠の瞳を持つ男。その目は焦りと嫉妬の炎が不気味に揺らめいていた。



 身体が回復したテオドールは、公務を少しずつこなし始めていた。国王より正式に、テオドールを立太子させるつもりだと宣言され、立太子に向けた準備が着々と進んでいる。しかし公の発表は、もう少しテオドールの身体の調子を見極めてから、ということになっていた。

 筋力アップの為のトレーニングに加え、少しずつ増えてきた公務と、学園での勉強、立太子に向けての勉強も増えて、なかなか多忙な生活を送っている。だが、動きたくても動けなかった頃に比べると毎日が充実して楽しかった。
 やっと第二王子としての務めが果たせると、テオドールは精力的に活動していた。

 そして、どんなに忙しくても、セリーヌに毎日会うことだけは欠かさない。

 あの馬鹿な兄と自分は違うのだと、セリーヌに分かってもらう為に。

 今日はどんな花束を持って行こうか、人気パティスリーの菓子の方が良いか、悩みながら学園の長い廊下を歩く。
 すると、待ち伏せていたかのように、フィルマンが立っていた。フィルマンはセリーヌの弟だが、テオドールの古くからの親友でもある。

「テオ、調子はどうだ?」
「フィル! もちろんセリーヌのお陰ですこぶる好調だよ。今日も公爵邸にこの後向かう予定だ」
「姉上が今日は王宮に行くと言っていたぞ」
「そうか! ありがとう」

 毎日ルヴィエ公爵邸に通っていたのだが、テオドールの多忙さを配慮してか、ここ数日はセリーヌが王宮に来てくれている。
 公務も手助けしてもらい、少し格好がつかないのだが、それでも一緒にいられる時間が長くなるのは嬉しかった。

 セリーヌの美しい笑顔を思い出して微笑むと、フィルマンがしみじみと「よかったな」と呟いた。

「ああ。幸せすぎて怖いくらいだ」
「ははっ。テオがそんな顔する日が来るなんてな」

 セリーヌの弟であるフィルマンにだけは、以前から彼女への想いを見抜かれていた。
 
 彼女を想うきっかけとなったのは、テオドールがまだ幼き頃のこと──。
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