浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
「私がセリーヌに手紙を出したのは、『兄が貴女を狙っている』という情報が入ったからです。あの男爵令嬢もチョロチョロしていましたし、王宮は物騒ですから、危険だと判断しました」
「ええ!?」

 アベルは、第一王子派と呼ばれる貴族達と協力して、テオドールを王太子の座から降ろすべく、テオドールの弱点といえるセリーヌを拉致し脅そうとしていたそうだ。その計画もお粗末なもので、計画段階からテオドールの息のかかった間者に筒抜けだったのだとか。
 テオドールは念の為セリーヌを王宮に近づけないようにし、証拠を集めて捕縛する準備をしていたのだそう。
 
 想像してもみなかった内容に、驚いて言葉も出ない。

「ご存知なかったのですか? ではフィルの勘違いだったのですね……。あぁ、それでも貴女が無事でよかった……」
「私は……テオドール様がオデット様と……浮気を、するのを見せないように、王宮から遠ざけたのかと……」

 大きな勘違いをしていたと分かったセリーヌは、今度こそ呆れられたのではと思って俯いた。「ふぅ」とテオドールのため息も聞こえてきて、身をすくめる。

 すると、テオドールがセリーヌの手を取った。俯いたセリーヌの瞳に映るよう、ベッドの脇に跪く。

「!」

 それはセリーヌが聖魔法を使ったあの日、テオドールが跪いて求婚してくれた日と同じ仕草だった。

「セリーヌ。愛しています」
「っ!」

 真っ直ぐに翡翠の美しい瞳を向けられて、セリーヌは息をのんだ。

「貴女にこの命を救ってもらえる前から、貴女だけを想って生きてきました。兄が婚約破棄を宣言したあの日、貴女と婚約したいと両親に強請ったのは私です」
「え?」

 命の恩人のセリーヌに恩を返すつもりで、愛しているように振る舞ってくれている、と思い込んでいたセリーヌは、思わぬ事実に驚く。

「フィルに聞けばわかると思いますが、私はずっと幼い頃から、貴女の虜でしたから」
「ええ!?」
「だからもう無理ですよ。私から逃げることなど出来ません。やっと貴女を手に入れたのだから、私は貴女の手を離すことは一生あり得ません。出来れば貴女を誰の目にも触れない部屋で閉じ込めてしまいたいくらいに、貴女への独占欲にまみれているのです。浮気などする余地は微塵もありません。貴女だけを愛しています。大人しく私の側で、ずっと私だけの妃でいてください」
「……はい」

 何だか、もしかしたらとても重く大変な愛を告げられた気もするが、一途に自分を愛してくれていることを知って、セリーヌは嬉しくてただ頷いた。
 テオドールは嬉しそうに甘く微笑み、彼女の手の甲にキスをする。

「テオドール様」
「テオと、呼んでください」
「……愛しています、テオ」

 照れながら告げると、テオドールはセリーヌ以上に真っ赤に染まっていた。

「! 貴女はもう! 私はもうすこぶる健康な男なんですから! 我慢する身にもなってください!」
「ふふっ」

 怒っているのか、照れているのか、真っ赤に染まるテオドールを、セリーヌは心から愛おしいと感じていたのだった。
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