浮気ダメゼッタイ!悪役令嬢ですが一途な愛を求めます!
6 エピローグ
 澄み切った空が広がり、花々が咲き誇るこの佳き日。
 ロアンデル王国の国民は、祝賀モードに盛り上がり浮き足立っている。
 貴族たちは美しく着飾り、主役となる二人の登場を今か今かと待ち構えていた。

 今日は、王太子テオドールと、公爵令嬢セリーヌの結婚式が執り行われる日だ。

 王都にどっしりと構える、歴史ある大聖堂の奥で、セリーヌは純白のドレスを身にまとっていた。

 今日のセリーヌはいつも以上に美しい。銀色に輝く髪は丁寧に結い上げ、王族が引き継いできた伝統のティアラが頭上に輝く。華やかなメイクで強調された菫色の瞳は麗しく、瑞々しい唇は彼女の心を映して弧を描く。
 婚礼衣装は、王家御用達のプロデザイナーが、気合いを入れて仕上げた特注ドレスだ。胸元から腰までは見事な刺繍が施され、腰からはふんわりと幾重にもレースが広がっている。レースの先端部分も刺繍、そしてパールが散りばめられていて、光を浴びるとキラキラと輝く。

「ふふっ。さすがは我が娘。わたくしに似て美しいわぁ」
「セリーヌ……いつでもっ、いつでも帰ってきて良いからなっ!」
「父上、ちょっと縁起でもない」

 両親とフィルマンが花嫁の控室にやってきた。セリーヌを美しく着飾ってくれたマリーは、部屋の隅で瞳を濡らしている。
 既に泣いている父を呆れたように一瞥し、フィルマンは「姉上、綺麗だ」と賛辞した。

「ありがとう、フィル」

 セリーヌがニッコリして礼を言うと、フィルマンは照れたように頬を掻く。

「姉上、テオを頼むぞ」
「ふふっ。フィルこそ、テオ様のサポートをこれからもよろしくね」
「わかってる……。幸せになれよ」
「ええ。もちろん!」
 
 セリーヌは花開くように微笑んだ。その笑顔を、心の底から嬉しく、そして少しだけ寂しく感じながら、彼らは幸せそうに笑い合っていた。



 
 
「あぁ! 美しすぎる! 誰にも見せたくない! 閉じ込めておきたい!」

 どこかで聞いたようなセリフが頭上で聞こえる。
 セリーヌはぎゅうぎゅうとテオドールに抱き締められていた。

 両親達との時間を大切に過ごせるよう配慮して、この部屋に来るのを我慢していたテオドール。
 そして家族が退出したタイミングでやって来たのだが、美しい花嫁姿のセリーヌを賛美し褒めちぎった後、抱き締めて離さない。

「こんなに美しい花嫁がいたら、どこかの神々が攫っていくんじゃないだろうか?」
「ふふっ、そんなことあるわけないでしょう?」

 自身もとても美しい顔をしているのに、そんなことは棚に置いてセリーヌのことばかり賛美してくるのだ。
 新郎であるテオドールも、純白のタキシードだ。戴冠式の時のマント姿も凛々しくて素敵だったが、タキシードは「王子様」らしい姿で、大変良い。セリーヌは胸をときめかせていた。

「わたくしも……貴方を独り占めしたい……です」
「! ああ、セリーヌ!」

 さらに強い力でぎゅっと抱き締められて、「苦しい」となんとか伝えると、今度はキスが沢山降ってきた。
 そして見つめ合い、微笑み合う。

「テオ、今日を迎えられたこと、本当に嬉しく思います。ありがとう」
「セリーヌ……こちらこそ。私の花嫁になってくれて、ありがとう。私の長年の夢が叶いました」

 翡翠の瞳はセリーヌだけを映し、彼女の手を取ると、指輪をはめる場所にキスを落とした。

「テオ……愛しています」
「私の方が、愛しています」
「ええ?」
「ふふふ」

 誰もいない花嫁の控室。

 白い装いの二人は今日の主役。
 
 今日は雲ひとつない青空が広がり、風は優しく、緑が光り輝く。

 二人はそっと唇を重ね合わせ、そして幸せそうに微笑み合うのだった。


**END**
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