彼女の夫 【番外編】あり
「それじゃあ。会計は次に来た時にまとめて払うのでいいですか?」

「はい。あの・・ごちそうさまです。お大事にしてくださいね」

会釈して、俺はクリニックを出る。
今度は俺の腹がグゥーッと鳴った。

彼女の前で鳴らなくて助かった・・。

「さーて、俺も」

メキシカンレストランにUターンし、彼女に渡したメニューと同じものを作ってもらい持ち帰った。


スーツからラフな格好に着替え、冷蔵庫からビールを出した。
一気に何口か飲みながら、彼女の言ったことを思い出す。

『不思議なことが起こるものだなって、考えていたんです。電車で、たまたま隣に座っただけなのに・・って』

そうなんだよな・・。

オフィスに戻った後だって、紅茶が手にかかって火傷をしなければ、彼女のクリニックに行くこともなかったわけだし。


「あー、このチリソース美味いな」

彼女も、今頃食べているだろうか。
喜んでくれているといいけど。

そしてもし機会があれば、一緒にレストランに行っても楽しいだろうな。

・・・・何考えてるんだ? 俺は。


正直、気持ちが浮き立っていた。
もしかして、ひと目惚れ・・か?

もっと、彼女と話がしたい。
こんな気持ちは久しぶりだ。

「はやさか・・あおい・・」

クリニックのウェブページで、名前が『あおい』だと知った。
そこには生年月日も出ていて、32歳だ。

今度彼女に会えるのは、明後日の夕方。
缶に残ったビールを飲み干しつつ、もう今から、次の診察日が待ち遠しかった。


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