彼女の夫 【番外編】あり
彼女はおそらく、俺が『社長』だということを知らないだろう。
最初に会ったのは電車の中だったし、クリニックでの接し方もごく自然だった。
いつかは気づくとしても、しばらくの間は知らずにいてほしいと思った。
『社長』というフィルターを通さずに、俺を見てもらいたくて。
「社長、何かあったんですか?」
コーヒーを持って社長室に入ってきた高澤に、前置きもなく問われた。
「何かって・・何かあったように見えるのか?」
「んー・・。今日はいつもと少し違いますよ。普段は『社長オーラ』全開なのに、ふと遠くを見る視線とか、ちょっとドキッとしますよ」
そう言って、高澤はニヤニヤと笑った。
その顔が『女性でしょ?』と言いたげなのだ。
「好きなんですか?」
「え?」
「違うんですか?」
「・・・・」
『好きなのか』とストレートに聞かれれば戸惑うものの、『違うのか』と聞かれると否定したくなる。
それは、裏を返せば『好きだ』ということなんだろうか。
「・・昨日、初めて会ったばかりだ・・」
「へぇ・・。その女性、ウチの『社長』だということは?」
「・・知らないだろうな」
「なるほど、それで『普通の男』になってるわけですか。でも珍しいですね・・私の知っている限りだと、社長になられてから、社長の方から好意を持った女性は初めてじゃないですか?」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
最初に会ったのは電車の中だったし、クリニックでの接し方もごく自然だった。
いつかは気づくとしても、しばらくの間は知らずにいてほしいと思った。
『社長』というフィルターを通さずに、俺を見てもらいたくて。
「社長、何かあったんですか?」
コーヒーを持って社長室に入ってきた高澤に、前置きもなく問われた。
「何かって・・何かあったように見えるのか?」
「んー・・。今日はいつもと少し違いますよ。普段は『社長オーラ』全開なのに、ふと遠くを見る視線とか、ちょっとドキッとしますよ」
そう言って、高澤はニヤニヤと笑った。
その顔が『女性でしょ?』と言いたげなのだ。
「好きなんですか?」
「え?」
「違うんですか?」
「・・・・」
『好きなのか』とストレートに聞かれれば戸惑うものの、『違うのか』と聞かれると否定したくなる。
それは、裏を返せば『好きだ』ということなんだろうか。
「・・昨日、初めて会ったばかりだ・・」
「へぇ・・。その女性、ウチの『社長』だということは?」
「・・知らないだろうな」
「なるほど、それで『普通の男』になってるわけですか。でも珍しいですね・・私の知っている限りだと、社長になられてから、社長の方から好意を持った女性は初めてじゃないですか?」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。