彼女の夫 【番外編】あり
帰社したのは18時を過ぎた頃だった。

クリニックは18時半までだから、もし明日の予約を待たずに今日行くとしたら、今なのだが・・。

火傷をした左手は、特に痛くない。
行く理由は無い・・か。

俺はそのまま高層階行きのエレベーターに乗り、社長室に戻った。


「社長、お帰りなさい。早速なんですが、ちょっとご相談がありまして」

河本が、俺を追うようにして社長室に入って来る。

「何か問題でも?」

「いえ、問題というほどでもないのですが、実は明日の朝に経済誌の取材が入りまして。写真を撮るというので、その包帯が取れないかと思いまして・・」

「あー、確かに悪目立ちしますね・・。医師に相談してみますよ。クリニックが18時半までなので、行ってきてもいいですか?」

「申し訳ありません。お戻りになったばかりなのに」

河本は恐縮していたものの、俺は行く理由ができたことが嬉しくてすぐ2階に降りた。


クリニックのドアを開けると、待合スペースにいたのは3人ほどで診察の順番がきた。

「服部さん・・夕方になって痛みが出てきましたか?」

彼女は俺の包帯やガーゼを外して患部を診ている。
俺は、そんな彼女のうつむき加減の顔をじっと見ていた。

「うーん・・・・どちらかというと良くなっているように見えるんですが・・」

そう言って顔を上げた彼女と、30センチほどの距離で目が合った。
近い・・。

目を逸らさずにいると、彼女の白い頬が少しずつ赤くなっていくのが分かり、俺の鼓動も徐々に早くなっていった。


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