彼女の夫 【番外編】あり
先に視線を外したのは彼女だったが、先に言葉を口にしたのは俺の方だった。

「あの・・お願いがあるんです。明日取引先と会う予定があって、可能なら包帯が取れないかなと」

「そう・・ですね。大きめの医療用絆創膏があるので、それで覆うのはどうですか? 色もベージュですし目立ちにくいと思いますよ」

「ありがとうございます。そうさせてもらえると助かります」

処置を終え、俺の後ろに誰も待っていないことを確認してから彼女に小声で尋ねた。

「早坂先生、昨日のタコス・・どうでした?」

「あ・・・・ごちそうさまでした。とっても美味しかったので、近いうちにお店に行くつもりなんです」

「そうなんですね。スタッフと一緒に行くんですか?」

口に合ったようで良かったものの、誰と一緒に行くのかが気になった。

「いえ、ひとりで行こうかと思ってるんですけど・・。もしかして、お一人様は気まずい雰囲気だったりします?」

「そんなことはないでしょうけど・・。気になるようなら、一緒にどうですか?」

「えっ」

話の流れで、自然に誘ったつもりだった。
でもさすがに、昨日知り合ったばかりの、それも患者の俺とは行きづらいか・・。

「あ、その、特に意図はなかったんですが・・。私は良く行くので慣れているというか・・」

「ふふっ。お気遣いありがとうございます。服部さんの治療が終わったら行きましょう。今日診せてもらったので、明日の夕方の予約は明後日に変更しておきますね。じゃ、お大事に」

治療が終わったら・・か。
社交辞令にため息をつき、俺は会計を済ませてクリニックを後にした。


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