彼女の夫 【番外編】あり
「服部さん・・どうされました? 手が痛みますか? あ、もしかして何か忘れ物でも?」

「いえ・・そうじゃなくて・・」

視線を逸らさず見つめる俺に、彼女の瞳が揺れ始める。

「あの・・・・今日は、なぜ・・」

「・・早坂先生に会いたくて」

「えっ」

驚いたのか、彼女は目を見開いた。

「あの・・仰っている意味が・・分からないのですが」

それは、俺を受け入れないという意思の表れか、それとも、本当に意図が伝わっていないのか・・。

どっちだ。
どうしたらいい?


俺は、ふと視界に入った待合スペースの椅子に座り、今度は彼女を見上げる格好でもう一度口にした。

「先生の顔が見たくて・・先生と話がしたくて・・会いに来ました」

そして、右手を彼女の左手に伸ばして、そっと触れた。

ピクッと彼女は反応したものの、その手は振り払われずに、そのまま静かに時間が流れる。

俺は思った。
彼女が、断る理由を探していると。


それなら・・。
触れた手を、ゆっくりと離す。

「すみません、困らせて」

「・・・・」

「帰ります」

俺は立ち上がり、クリニックの出入り口に向かう。
ほんの少しだけ、引き留められるんじゃないかと期待したけれど、それは無かった。

「それじゃ、失礼します」

後ろを振り向かずに、クリニックを出た。


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