彼女の夫 【番外編】あり
彼女は新幹線のホームまで来てくれた。
もうすぐ出発だというのに、繋いだ手が離せずにいる。

スーツを、それもスリーピースのカッチリしたスーツを着たオトナの男が、何をしてるんだか・・。


「服部さん、お帰りいつですか?」

「あ、明日の午後・・18時過ぎには戻って来ます」

「じゃあ、晩ご飯を一緒に・・待っています。ね、そろそろ、行かないと・・」

彼女にそう言われて、渋々手を離した。
ホームの時計を見上げると、発車まであと3分に迫っている。

「行ってらっしゃい、玲生さん」

「えっ」

「あ・・・・。私も、お名前呼んでいいですか?」

「もちろん。・・もう一回」

『玲生さん』と動いた彼女の唇を、親指でそっと撫でた。

はー・・。
ふたりきりだったら、絶対キスした。
明日の夜まで、我慢かな。

そんなことを考えながら、ようやく車両に乗り込んだ。
手を振る彼女を、見えなくなるまでデッキから見つめていた。


「そういうことでしたか、東京駅から・・って」

指定の座席に現れた俺を、高澤がニヤけた顔で迎える。

「なんだ、見てたのか」

「『見てたのか』じゃないですよ。見送りなんて羨ましすぎます。河本部長に報告だな」

そう言ってスマートフォンを取り出した高澤を見て、思わず『あ!』と声を上げた。

「どうしたんですか? 何か忘れ物でも?」

「俺としたことが・・。浮かれてて気づかなかった」

「はい?」

「連絡先を交換するのを忘れた・・。はぁ~」

真剣にため息をつく俺に、高澤が必死に笑いをこらえていた。


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