彼女の夫 【番外編】あり
名古屋に向かう車内で、彼女の感触を思い出していた。

抱き締めた時の肩のラインや首元。
指の手触りや、唇のやわらかさ・・。


「社長、そんなうっとりした表情まで見せられると、仕事が増えて困るんですけど」

「ん? どうして困るんだ?」

「社長の知らないところで、私がどれだけ社長へのアプローチを断ってるか知ってます? そんな顔されたら、ますます増えそうで怖いですよ」

「じゃあこれからは、付き合っている女性がいると言えばいいじゃないか」

俺は彼女とのことを、隠そうとは思っていなかった。
しいて言うなら、まだ知り合ったばかりで、お互いのことをあまり知らない状態ではあった。

「そんなことして大丈夫ですか? ご迷惑がかかるのではないかと心配なんですが・・」

「どうだろうな・・。多少メディアに出ているとはいえ、俺は別に芸能人じゃない。ただ、彼女に害が及ぶようなことになっても、俺がしっかりしていれば問題ないはずだが」

「あー、もう『普通の男』になったかと思えば、瞬時に『社長オーラ』全開・・。ギャップ萌え半端ないですよ」

「勝手に萌えるな」


流れる景色を見ながら、ほんの少しだけ不安がよぎる。
俺の立場が、彼女を傷つけるようなことにならなければいい・・と。

今は、社長であることを特に言う必要もないと思っていた。

もうしばらく、俺自身を見てほしくて、俺そのものを好きになってほしくて、伝えずに済むなら、そうしたかったから。


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