彼女の夫 【番外編】あり
伝えた内容で察したのか、囁いた時の俺の吐息に反応したのか、彼女の身体がピクッと揺れた。

「俺、蒼さんのそばからいなくなるようなこと、全く考えてないですよ。それどころか・・どうしたらガッカリさせないか、そればかりです」

「そんな・・」

「正直に言うと、蒼さんとそういう時間を過ごしたら、俺は今より不安になる。失うのが怖いからです。でも・・それでも一緒にいたいと思える女性と、そうなりたいと思っています」

手に入れる嬉しさよりも、その後に続く失う恐れの方がずっと重苦しい。
それを承知で、一緒にいたいという自分の想いを信じた。

『顔が見たい』『声が聞きたい』『触れてほしい』『笑いかけてほしい』

心の奥から湧いてくる気持ちを、抑えることができなかったから。


そっ・・と、どこか諦めたような微笑みを浮かべた彼女の手が、俺の頬に触れた。

「ホテルは、キャンセルで・・。玲生さんのご自宅は、今すぐチェックイン可能ですか?」

「えっ」

「玲生さんを、もっと知りたい・・・・」

頬から首筋に滑り降りた彼女の指の感触に、背中の下あたりがゾクッとした。

「・・お望みどおりに」

彼女の肩を抱き、ビルを出た。

自宅に向かうタクシーの中でホテルをキャンセルし、それ以外は彼女も俺も終始無言で、お互いに窓の外を眺めているだけだった。


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