彼女の夫 【番外編】あり
俺はメディカルセンターから海岸に出た。
彼女が座っていたベンチに座り、海を眺める。

彼女のそばにいたくて、ロサンゼルスに来た。
社長を辞めてもいいと思った。


『自分のことしか考えていない人は嫌なのよ』


あ・・。
俺は、俺がすることを彼女も喜んでくれると考えていた。

だけど、どうだったんだろう。
突然やって来て彼女の生活に入り込み、望んではいなかったことまでさせてしまった。

拒否も否定もされなかったから、それは承諾や肯定だと捉えていたけれど、グレーゾーンだってあったはずだよな・・。

「ひとりで突っ走り過ぎたか・・」

彼女を想ってのこととはいえ、やり過ぎたことは認めようと思った。


「玲生さん」


ふいに後ろから声がした。


「蒼・・」

「ここにいたのね。待たせてごめんなんさい」

「いや・・俺が勝手に待ってただけだから」

少しの間、隣に座った彼女と一緒に海を見ながら、あえて彼女の顔は見ずに話し始めた。

「蒼・・・・俺、この先も蒼と一緒にいたいとしたら、このままロサンゼルスに残ってもいいかな。ここで暮らして、ここで社長業をやっても構わない?」

彼女からの返事はなく、波の音と、近くを通る人たちの声だけが聞こえる。

「・・・・ダメって言ったら、どうするの・・?」

「そしたら日本に帰るよ。遠距離でずっとってわけにもいかないだろうから、蒼のことも諦める」

仕方がないと思った。
どちらか一方の想いだけで、どうにかなるものでもない。
自分でも驚くほど、『諦める』というフレーズがするりと口から出た。


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