彼女の夫 【番外編】あり
彼女はベンチから立ち上がり、俺の前に立った。
何だろうと、俺は彼女を見上げる。


えっ・・?

そう思うより早く、目を閉じるより早く、俺の唇に彼女の唇が重なった。

「あお・・・・ん・・っ」

離れた隙に名前を呼ぼうとすると、離れた唇が戻ってきた。
なぜ・・?


「迎えに来たよ・・って言ってくれればいいのに」


2回目のキスが離れていった時、彼女は拗ねたように言った。

「・・あー・・・・そうか」

その選択は、考えてもみなかった。
彼女がロサンゼルスで仕事を続けることが、俺の前提になっていたのだ。

「玲生さん、いつも先に決めちゃうからサプライズだらけで。決める前に話してほしかったこと、いくつもあったよ」

「・・ごめん」

「一緒にいたくないなんて、少しも思ってない。だけど、私も考えていることがあるから、決める前に『こう考えてる』って言ってくれると嬉しい」

「うん・・ごめん」

謝るしかなかった。
良かれと思ってしたことばかりだったけど、それは俺がそう思っただけで、彼女にだって意思はある。

「玲生さん、『迎えに来たよ』って言ってくれる?」

「いいの?」

俺は立ち上がり、頷いた彼女を抱き締めて言った。

「待たせてごめん。一緒に・・日本に帰ろう、蒼。向こうで一緒に暮らそう」

「・・私で、本当にいい?」

「蒼こそ、俺でいいのか?」

その答えは、どちらからともなく近づいたキスが教えてくれた。


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